
カメラ初心者が中秋の名月を撮るのはむずかしい
「明日は『たばらして』や」
今は亡き義父が8年くらい前につぶやいたこの言葉で、わたしの脳内は「?」だらけになりました。
英語?日本語?呪文?
みなさんは「たばらして」って何のことか、想像つきますか?
わたしはこの地域で暮らすまで、全く知りませんでした。
「たばらして」は三重県熊野地方の季節行事
先に答えを言ってしまうと、「たばらして」とは、三重県の東紀州地方、特に熊野市の一部と御浜町の一部で昔から行われている季節行事のこと。
中秋の名月の日、この地域の家庭では、ススキやお供えのお菓子(お団子など)を玄関先に出します。
そして日が暮れて月が顔を出しはじめる頃、大きな袋を携えた子どもたちが近所の家を回りはじめるのです。
子どもたちはそれぞれの玄関先で「たばらしてー!」と元気に声かけをして、玄関に出されたお菓子などをもらい、また隣の家へ…とどんどん回り、袋にたくさんお菓子を集めていきます。
これが「たばらして」の正体。
昔はお供えがサツマイモのことが多かったようで「芋たばり」とも呼ばれたらしいですが、今はスナックやチョコなどのお菓子類がほとんどです。
…えっ、田舎版ハロウィン?
って思いません?わたしは思いました。あと北海道の「ローソクもらい」みたいだな、とも。
「たばらして」の語源
最初に「たばらして」と聞いた時に何語かすらわからなかったわたしとしては、「たばらして」の語源がとても気になり、あれこれ調べてみました。
いろいろな説があるようで「絶対これ!」とは言い切れないのですが、おそらく
「賜(たまわ)らせて」→「たばらせて」→「たばらして」
と変化したのではないかと。
「賜る」は「もらう・受ける」という言葉の謙譲語ですから、「本来は神様のものであるお供えをいただく」という気持ちも入っているのでは、と推測しています。
今年も「たばらして」行ってきました
というわけで幼い子が2人いる我が家も例にもれず近所を回ってきました。今年はたまたま夫も早く帰ってこられたので、家族4人で。

お菓子置き場にもなる便利なみかん用コンテナ
これは我が家の玄関に置いたお菓子。ススキがないのは準備する時間がなかったからです…。(こうやって文化は変化していくんですよね、ごめんなさい。来年はちゃんと飾ります)
ちなみに我が家はこの「たばらして」を行う地域でもかなり人が少ない場所にあり、その中でもさらに奥まったわかりにくいところに家があるため、お菓子は全然減りませんでした。ちょっとさびしい。だれか来てください。
散歩がてら1時間ほど近所を回って、長女も次女も袋にいっぱいお菓子をいただきました。途中保育園のお友達にも会ったりして、楽しい時間を過ごしましたよ。

みかん農家をしている人も多いので、みかんをもらうこともある
こんな感じで、中くらいのビニール袋に2つ分、たっぷりいただいてきました。
ほとんどは小分けのお菓子ですが、たまにみかんをもらったり、ジュースをもらったり、変化があって楽しいです。透明な袋にお菓子を詰めたセットを作ってくれていたりすることも。
大抵はうちのようにお盆やカゴなどを置いてお菓子を準備しているのですが、中には玄関先にビニールプールを置き、そこにポテトチップスの袋を山ほど入れている太っ腹なおうちもありました。すごいっ!
うちの子たちよりも大きい小学生の子どもたちなんかは、大きなゴミ袋いっぱいにお菓子を詰め込んで楽しそうに道を歩いていました。
しばらくはお菓子に困らなさそうです。
警察も出動する「たばらして」
「たばらして」は基本的に歩いて回ってお菓子をもらいますが、正直なところ「徒歩」に向いた道ばかりではありません。
歩道が整備されているところはまれで、大抵は車がぎりぎりすれ違える程度の細い道。側溝もあります。そのうえ、都会のように電灯がたくさんついているわけではありませんから、いくら中秋の名月の日とはいえ、とても暗いのです。(そのため知り合いに会ってもなかなか気づけない…)
そのため町内放送で「今日は『たばらして』の日です、ドライバーのみなさん気を付けてくださいね」というような放送がかかったり、パトカーがこの地区をパトロールしてくれたりします。まさに地域を挙げた行事、といったところ。
昨日も子どもたちと歩いているとき、細い道でパトカーとすれ違いました。
子どもたちが「あっ!パトカー!」と手を振ると、助手席の窓が開き、おまわりさんが袋に入った何かをこちらに差し出しています。
「『たばらして』の日だし、お菓子でも配ってるのかな?」と一瞬思ったんですが、くれたのはこれ。

こんどウォーキングのときに使おう、と思っている母です
反射タスキ!ありがたい!
「暗いからね、これつけて気を付けて行ってきてね」とのことでした。ありがとうございましたっ!
地域によって「お月見どろぼう」という風習もあるらしい
「お月見のお供えを子どもたちがもらって歩く」という風習は全国にもあるようで、weather newsでも取り上げられていましたよ。
お供え(転じてお菓子)を玄関からもらっていく、というのは「たばらして」と全く同じで、掛け声だけが違うようです。
というか「お月見どろぼう」が変化して「たばらして」になったんでしょうけど。
いずれにせよ子どもたち大喜びのイベントです。来年も楽しみです!
おまけ:この言葉はわかる?
さて、せっかくなのでここでもう一つ、わたしが最初さっぱりわからなかったこの熊野地域の言葉をご紹介します。
「つれもてしよら」
これ、耳で聞くとなんとなくわかるかもしれません。
ただ、わたしは最初文字で出会ってしまったので、まったくわかりませんでした。
ヒント:わたしが初めて見たのは道沿いの看板。「つれもてしよらシートベルト」って書いてありました。
ちょっとだけスクロールしたら答えがわかるようにしておきますので、これも考えてみてくださいね。
答え:「一緒にしよう」
言葉としては「つれもて しよら」で区切られます。
- 「つれもて」→「連れもって」→「連れだって」→「一緒に」
- 「しよら」→「しよう」と誘うニュアンス
「つれもてしよらシートベルト」はまあ、「みんなで一緒にしよう、シートベルト!」というところでしょうか。
わかるとなんてことないんですけど、今でも「たばらして」とセットになって思い出す言葉です。